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2020-05-11

藪下 修

「プロの写真と素人の写真は何が違うのか」が知りたいの?

それは「俺だったら、こう撮る!」っていう強い意志があるかないかだよね。

桜の時期になると、みんな外に出て桜の写真を撮っているじゃん。それこそ、街の写真クラブみたいな人たちが大勢で撮っているよね。

今はカメラの性能がいいから、プロみたいな写真が誰でも撮れる。みんな、すごく綺麗な写真を撮っている。

でもね、すごく綺麗な写真だけれど「誰が撮っても同じじゃん」っていう写真しか撮っていない。

なんか、みんな形が決まってるの。

例えば、俺だったら“雨がザーザー降っている時”に桜の写真を撮りたい。だって、そこには何か物語を感じるでしょ。

俺は、それを“匂い”って言うんだけど、そんな匂いを感じる写真が撮れるかどうかがプロと素人の違いじゃないかな。

写真って、「撮って」「選んで」ちょっと前だったら「プリントして」っていう作業があるよね。カメラマンはその一連の流れを見てきているから、自分の中で何か物語を感じてしまう。

でも、一般の人はその物語を経た“最後の1枚の写真”しか見ないわけだよね。だから、その最後の1枚の写真で勝負できなければいけないわけ。その1枚で見る側の感受性を刺激できる写真でなければダメなの。

例えば、ひとりの女優さんが荒野に立っている写真。その写真には、普段は見られない女優さんの別の面が出ていてほしい。写真を見た人に「なんか違う人間が立っているみたい」という錯覚を起こさせたいじゃん。

海辺に女のコが座って波を見ている写真なら、写ってはいないけど「その女のコのそばには彼氏がいるのかな。すごく幸せそうだな」とか思ってほしいじゃん。

そんな“写真の広がり”を感じてもらいたいの。そのためにプロのカメラマンは、ものすごく苦労するわけ。
写真って、基本的には人に見せるものだから、「いいね」「すごいな」って言われたいよね。だから、いろいろな工夫をするのは当然のこと。

昔、ストリッパーの写真を撮ったことがあってね。彼女たちは股間が商売道具だから「股間は撮っちゃダメよ」と言われたことがあった。

そこで「だったら、顔で勝負しましょう! 股間は撮さないけど、いかにも感じているという顔を撮りたいです」と返事をしたことがあった。

ある若いアイドルには「アイドルはモデルのようにスタイルが良いわけではない。だからこそ、顔じゃなくてあえて体で勝負しよう」と言って撮ったことがあった。

あえて追い込む。自分も被写体も。

ちなみに、「体で勝負したい」と言って、すぐに納得して撮らせてくれたアイドルは、今でも活躍している有名な女優さんになったよ。

なんか、話が少し脱線しちゃったかな。

「プロの写真と素人の写真は何が違うのか?」が知りたいんだったよね。

それは、結局「お金をもらって、人の感受性を刺激する写真を責任を持って工夫して撮れるかどうか」なんじゃないかな。

藪下修 1952年生まれ。カメラマン。

カメラマン稲越功一氏に師事し、1981年に独立。浅野温子、天海祐希、石田ゆり子、一色紗英、内田有紀、小泉今日子、後藤久美子、沢口靖子、仲間由紀恵、藤原紀香、本田美奈子、松たか子、宮沢りえ……など、数々の女優、アイドルらを撮影してきた。現在も精力的に撮影中

【インタビュー】村上隆保

【撮影】野﨑慧嗣

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